ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

クローズアップ

【沖縄動点観測】「辺野古移設」(後)~分断と対立の構図
クローズアップ
2014年1月16日 07:00

 「オール沖縄」対日本政府の構図は、巧妙に転換させられた。
 日本政府は、普天間基地の固定化という恫喝と、振興策というアメで仲井真弘多知事や自民党の県選出国会議員を屈服させ、県民の批判の矛先を知事に向けさせ、県民同士を争わせるのに成功した。

<県民対立に違和感>
 「普天間の危険を除去するのは当たり前。なぜ辺野古に造らなければ、危険を取り除けないのか」。
 普天間基地に隣接する普天間第二小学校に通う5年生の娘を持つ母親(51)は怒りの矛先を日本政府に向ける。「県民の意見は無視され、基地が押し付けられてきた。ヤマト(日本政府)の植民地的な状況に憤りを感じる。ウチナーンチュ(沖縄県民)同士が対立させられるのは、おかしい」

 辺野古埋め立てが承認されたが、名護市の稲嶺進市長は「最後の砦(とりで)になる」として、基地建設に反対を表明。基地建設工事に関して「市域を管理する責務、市民の安全を守る責務がある。名護市長が持っている権限がある」と述べ、道路や港湾の使用許可などの権限を行使して建設工事を阻止する意向を示している。

<再編交付金・振興策の熱望>
辺野古集落の入口 名護市では、19日投票の市長選挙が最終盤の攻防を繰り広げている。現職の稲嶺氏=社民、共産、生活、沖縄社会大衆党推薦=と、元自民党県議で新人の末松文信氏=自民推薦=の一騎打ちだ。
 辺野古移設問題が起きてから過去4回の市長選で、新基地容認派は、「知事の判断に従う」などと述べて、積極的に容認を掲げない代わりに、振興策を押し出してきた。今回、初めて推進を強くアピールする。
 末松氏は、普天間移設問題の決着を訴え、知事や政府への協力を誓う。同時に、強調するのが、米軍基地再編で新たな基地負担を受け入れた自治体に配分される再編交付金だ。「辺野古移設反対を言わなければ、再編交付金42億円が名護市におりてきた。現市政が続くと220億円が無になる。再編交付金を活用して新しい名護市の街づくりをしたい」。
 政府・知事の全面支援を受け、過去4年分の再編交付金42億円の一括払いや北部活性化事業(50億円)の倍増などを掲げる。内閣府の小泉進次郎政務官ら政府・自民党の幹部、仲井真弘多知事が応援に駆けつける。
 辺野古移設の立場を明確にしたことで、末吉陣営にも、吉と出るか凶と出るか不安を持つ声はある。しかし政府と知事の全面支援で経済振興を実現しようと、熱気は、とどまるところを知らない。
 一方、名護市はこの4年間、再編交付金がなくても、地域活性化交付金など普通交付金を獲得して財政運営をしてきた。一般会計歳入額や建設事業費は前市政よりも増加している。

 17年前、海上ヘリ基地の是非を問う住民投票で取材に応じた辺野古の住民を訪ねた。名護市、とりわけ辺野古では、基地建設反対か容認かをめぐって、家族や親族でも争う対立、分断が生じていた。新基地容認派と言われる人も「振興が期待できるから支持している」のであって、「事件事故はあってはならない。基地がいつまでもあっていいとは思っていない」と語っていた。
 今どう思っているのか。17年前の思い出では話が弾んだ口が一転閉ざされた。「今回は何も話さないよ」。

<基地依存度5.2% 返還跡地は雇用103倍>
キャンプ・シュワブのゲート=沖縄県名護市 住民の根強い反対がありながら、辺野古への移設計画が繰り返されるのは、辺野古に米軍キャンプ・シュワブがあるからだ。
 キャンプ・シュワブの全面返還を求める声があがっている。
 「キャンプ・シュワブの自然環境は、アジア屈指の楽園だ。返還されれば、アジア・トップのリゾート地になる」。かりゆしグループCEOの平良朝敬氏(59)だ。
 「シュワブは625万坪で軍雇用は243人。かりゆしリゾートは8万坪、1,000室のホテルで、2,000人の雇用だ。辺野古移設で軍事要塞化されるのと、どちらが地域発展できますか」

 沖縄の経済は基地に依存していると言われてきた。県の資料によると、軍用地料や米軍人・軍属やその家族の消費支出などの基地収入(基地整備費は含まない)が県民総所得に占める割合は、1972年の復帰時の15.6%から、2009年度には5.2%に低下。金額では約2,000億円。県外・国外からの観光収入約4,000億円の半分に過ぎない。

 基地が返還された場合の経済効果はどうか。
 県の試算によると、那覇新都心地区で、従業員数168人から17,285人へ103倍、軍雇用者所得7.5億円から雇用者報酬(推計)518.3億円へ69倍、直接経済効果(上記基地収入に基地整備費や基地関連市町村収入を加えたもの)は年間51.5億円から735.4億円に増加、経済波及効果(生産誘発額)は年間54.8億円から874.2億円に増加している。

 もともと基地撤去の要求や、新基地建設に反対することは、経済振興・地域振興と矛盾するものでも、対立するものでもない。逆に、基地返還は、沖縄の振興発展、経済自立に不可欠だ。「基地反対、振興策も欲しい」となぜ言えないのか。

基地建設に反対する辺野古テント前での監視行動=沖縄県名護市辺野古 名護市街地名護市街地

<民主主義が試される>
 「沖縄振興予算は基地と引き換えにしかもらえないと思わされている。恫喝型の政治だ」。前泊博盛・沖縄国際大学教授は、指摘する。「問題は、被害と受益の分離にある。戦争になれば基地が真っ先に攻撃される。だから基地を沖縄に押し付ける。沖縄の人はそれを理解しないから基地と共生している。名護市でも同じだ。被害と受益の分離がある。辺野古の問題を真剣に考えていない。辺野古の人が犠牲になるだけだからだ。ほかの人に犠牲を強いてお金をもらうのはもうやめてほしい。日本の民主主義が試されている」

(了)
【山本 弘之】

≪ (中) | 


※記事へのご意見はこちら

クローズアップ一覧
クローズアップ
2014年1月12日 07:00
クローズアップ
2014年1月11日 07:00
クローズアップ
2014年1月10日 11:20
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
流通メルマガ
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル